るうの雑記帳

水の上を歩いた男



水の上を歩いた男

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 とても厳格で、信心深い教団に属していた生真面目なダービッシュが、
ある日、哲学的、かつ道徳的な問題に意識を集中しながら、
川のほとりを歩いていた。

 彼の属している教団では感情的な信仰と、
究極的な真理の探究を混同する傾向があり、
彼自身もその影響を受けていた。

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 ダービッシュの思索は、突然聞こえてきた大声によって中断された。
それは、神的な状態に達する為に単純な言葉を繰り返し唱える、
ダービッシュの修業の声だった。

「あれでは意味がない」
と生真面目なダービッシュはつぶやいた。

『ヤー・フー』と言うべきところを
『ウヤー・フー』と唱えているではないか」

 真摯な修行者には、他人の誤りを正す義務があることに気づいた
生真面目なダービッシュは、
あの行者は、音の中に隠されている霊性に共振しようとして
最善の努力をしているのだが、
正しい指導を受ける機会がなかったに違いない、
と考えた。

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 生真面目なダービッシュは船を借り、
声が聞こえてくる川の中洲へと向かった。

中州には葦の小屋があり、
その中では、ダービッシュの服を着た男が地面に座って、
その神秘的な言葉を繰り返し唱えながら体を動かしていた。

 生真面目なダービッシュは小屋に入って行き、

「友よ、あなたの唱え方は間違っている」
と言った。
「助言は、それを受けるものにも、行う者にも、
共に利益となるのだから、
私はあなたに正しい言葉を教えるべきだと思う。
それはこのように唱えるのだ」

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 正しい言葉を教えられたダービッシュは
「かたじけない」
と謙虚に礼を言い、
生真面目なダービッシュは
善行を行ったことに満足して船に戻った。

「なんといっても、あの聖なる言葉を繰り返し正しく唱えるものは、
水の上を歩くことさえ出来ると言われているのだからな。
実際にはまだ、そのような方にはお目にかかったことはないが、
いつの日か自分もそうなれるように、私も努力してきたのだ」

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 葦の小屋からは、何も聞こえてこなかった。

 しかし教えを正しく伝えたことに、彼は自身があった。

 しかし、やがて小屋の方から声が聞こえてきたかと思うと、
またもや以前と同じ
「ウヤー・フー」
の間違った言葉が繰り返されたのであった。

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 生真面目なダービッシュは船を漕ぎながら、
この出来事について考え、
人の習慣や過ちを正すことの困難さを思った。

ところが、その時、彼は不思議な光景を目にしたのだった。

 さきほどのダービッシュが、中州からこちらの方へ向かって、
水の上を歩いてやってくるではないか・・・。

 生真面目なダービシュはびっくりして、船を漕ぐ手を止めた。

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 船に近づいてきたダービッシュはこう言った。

「兄弟よ、お手数を掛けて申し訳ないが、
先ほどあなたが教えてくださった、あの正しい唱え方を、
もう一度教えてくださらないだろうか。
私にはどうしても覚えられないのだ」

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<<引用>>

スーフィーの物語[平河出版社]
編著[Idries Shah]

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